RAGとは?AIに社内資料や自分の文書を読ませる仕組み
「これって社内の規定ではどうなってたっけ」とChatGPTに聞いて、まったく見当違いの答えが返ってきて困った経験はないだろうか。当然といえば当然で、ChatGPTやClaudeのような生成AI(文章や画像などを新しく作り出すAI)は、あなたの会社の資料も、あなたが今書いている企画書の中身も知らない。知っているのは、学習した時点までのインターネット上の一般的な情報だけだ。
目次
この「自分だけの情報をAIに教えて、それをもとに答えてもらう」ための仕組みが、今回のテーマであるRAGだ。名前は聞き慣れなくても、使い方自体は難しくない。順番に見ていこう。
RAGとは何か——AIに「参考にする本」を持たせる仕組み
RAGは「Retrieval-Augmented Generation」の略で、日本語にすると「検索して補強してから生成する」という意味になる。ふだん私たちがAIとやり取りするとき、AIは自分の頭の中(学習した知識)だけを頼りに答えを組み立てている。これは、参考書も持たずに記憶だけでテストに答えるようなものだ。
RAGはここに一工夫を加える。質問が来たら、まず関連しそうな文書を手元の資料から探し出し、その内容を読んでから答えを作るようにする。試験でいえば「持ち込み可の参考書」を渡すようなものだと考えると分かりやすい。参考書の中身がそのまま頭に入っているわけではなくても、必要なページを開いて確認しながら答えられれば、正確さはぐっと上がる。
AIの世界でよく使われる「LLM」という言葉も触れておきたい。これは大量の文章を学習して人間のような文章を生成できるAIモデルのことで、ChatGPTやClaudeの中身にあたる部分を指す言葉だ。RAGは、このLLMに外部の資料を検索させる仕組みを組み合わせたものと理解しておけば十分だろう。
なぜ普通のAIだけでは答えられないのか
AIが学習した情報には区切りがある。ある時点までのデータをもとに訓練されているため、それより後に作られた社内マニュアルや、そもそも社外に公開されていない資料の内容は知りようがない。
さらに厄介なのが、知らないことでも、それらしく答えを作ってしまう性質だ。これは「ハルシネーション」と呼ばれ、もっともらしい嘘をあたかも事実のように述べてしまう現象を指す。悪気があるわけではなく、AIは「文章として自然な続きを予測する」仕組みで動いているため、手元に正しい情報がないと、確率的にそれらしい単語をつなげて答えを作ってしまうのだ。AIの学習の仕組み自体については、生成AIの「学習データ」とは?仕組みを初心者向けにやさしく解説でも詳しく扱っている。
RAGを使うと、AIは「知らないなら想像で埋める」のではなく「まず資料を探しにいく」という動き方になる。答えの根拠となる文章が実際に存在するため、的外れな回答が減り、どの資料のどの部分をもとに答えたのかを示しやすくなるのも利点だ。
RAGはどう動いているのか——4つの工程
仕組みを分解すると、おおむね次の4段階になる。
1つめは、文書を細かいまとまりに分ける工程だ。100ページの資料をまるごと渡しても探しにくいので、段落や章単位で小さく切り分けておく。
2つめは、その一つひとつの断片を「意味の近さで検索できる形」に変換する工程だ。この変換された数値の並びは「埋め込み(エンベディング)」と呼ばれ、似た内容の文章同士が近い位置に並ぶように数値化されている。たとえるなら、図書館の本を著者名の五十音順ではなく「内容の似ているものが近くに並ぶ」ように棚に配置し直すイメージだ。
3つめは、質問が来たときに、その質問と意味の近い断片をこの棚から探し出す工程。4つめは、見つかった断片を実際に読み込んだうえで、AIがそれをもとに回答の文章を組み立てる工程になる。ここまでを一瞬でこなすことで、AIは自分の記憶だけに頼らず、根拠のある回答を返せるわけだ。
自分の文書をAIに読ませてみる——具体的な始め方
RAGという言葉を意識しなくても、多くのAIサービスにはすでにこの仕組みを使った機能が用意されている。基本的な流れは次のようになる。
- ChatGPTやClaudeなど、使いたいAIサービスの公式サイトにアクセスし、アカウントを作る
- ファイルを添付・アップロードできる機能を探す(チャット画面のクリップマークなどから、PDFやWord、テキストファイルを読み込ませられることが多い)
- 読ませたい文書(会議の議事録、企画書、マニュアルなど)をアップロードする
- 「この資料の要点をまとめて」「この中に◯◯についての記載はある?」のように、文書の内容について具体的に質問する
- 回答がどの部分を根拠にしているか気になる場合は「どこにそう書いてある?」と聞き返して確認する
コピーしてそのまま使えるプロンプト(AIへの指示文)の例としては、「以下は当社の勤怠ルールに関する資料です。この内容だけをもとに、有給休暇の申請期限について教えてください。資料に記載がない場合は『記載なし』と答えてください」といった書き方が有効だ。最後の一文のように「分からなければ分からないと答えて」と伝えておくと、資料にない内容を勝手に想像で埋められるのを防ぎやすい。
使うときに気をつけたいこと
RAGは万能ではない。文書の分け方や検索の精度によっては、本当は関連する重要な一文を見落としたまま回答を作ってしまうこともある。答えを鵜呑みにせず、特に数値や固有名詞が絡む部分は元の資料を自分でも確認する習慣を持っておきたい。
もうひとつ意識したいのが、アップロードする文書の中身だ。個人情報や機密情報が含まれる資料を外部のAIサービスに読み込ませてよいかどうかは、勤務先のルールや利用するサービスの規約によって扱いが異なる。会社の情報を扱う場合は、事前に社内のルールを確認してから使うほうが安全だろう。文書を検索してから答えるという発想自体は、Web上の情報を調べてから回答するAI検索とも近い関係にある。この違いが気になる人は、AI検索とは?Google検索との違いとAIによる概要の読み方も参考になるはずだ。生成AIとの距離感そのものをもう少し体系的につかみたい場合は、『猫でもわかる生成AI』で学ぶ、生成AIとの距離の縮め方も手がかりになる。
よくある質問
Q. RAGを使うために専門的なプログラミング知識は必要ですか?
ChatGPTやClaudeなどにファイルをアップロードして質問するだけであれば、プログラミングの知識は不要だ。本文で紹介した手順のように、資料を添付して話しかける操作だけで仕組みの恩恵を受けられる。
Q. RAGを使えばAIが嘘をつくことは完全になくなりますか?
完全になくなるわけではない。資料をもとに答える分、根拠のない想像による回答は減らせるが、文書の見落としや解釈のずれは起こりうるため、重要な情報は元の資料で確認することが望ましい。
Q. アップロードした社内資料は安全に扱われますか?
サービスや契約プランによって情報の扱いは異なる。個人情報や機密情報を含む資料を扱う場合は、必ず勤務先のルールと利用するサービスの規約を確認してから判断してほしい。
Q. 「埋め込み(エンベディング)」とはどういう意味ですか?
文章の断片を、意味の近さで比較できるように数値の並びへ変換したものを指す。似た内容の文章同士が近い数値になるため、質問と関連する部分を素早く探し出せるようになる。
まとめ
RAGは、AIに「参考書を持ち込ませてから答えさせる」ための仕組みだ。文書を細かく分け、意味の近さで検索できるようにし、質問に関連する部分を探してから回答を組み立てる——という流れを知っておくだけで、AIが的外れな答えを返す理由や、その対策の見当がつくようになる。まずは手元にある議事録やマニュアルを一つアップロードして、内容について質問を投げかけてみることから始めてみてほしい。

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