ChatGPTやClaudeに個人情報を入力しない方がいい理由
目次
「ちょっと相談したいだけなのに」から始まる話
夜遅くに仕事の愚痴をChatGPTに打ち込んだり、体調の悩みをClaudeに相談したりしたことがある人は多いはずだ。文字を打つだけで、まるで話を聞いてくれる相手がいるように感じる瞬間がある。だからこそ、つい本名や住所、勤務先の名前まで書いてしまう。相手が人間でないぶん、逆に気が緩んでしまう人も少なくない。
ここでいう「AI」とは、文章や画像を作り出す生成AI(せいせいAI)と呼ばれる技術のことを指す。大量の文章を学習した仕組みが、入力された言葉に応じてそれらしい返事を組み立てている。人間のように「共感して黙っておいてくれる」わけではなく、あくまでプログラムが計算して答えを作り出しているだけ、という点をまず押さえておきたい。
似たような相談を、検索エンジンにキーワードだけ打ち込んでいた人なら分かるはずだ。検索なら単語をぽつぽつ打つだけで済んでいたが、AIチャットは文章で会話が成立するぶん、状況説明として自分の状況をひとまとまりの文章で書きたくなる。この「文章で説明できてしまう便利さ」こそが、気づかないうちに個人情報を書き込ませてしまう落とし穴になっている。
入力した文章はどこへ行くのか、まず仕組みを知る
チャット画面に文字を打ち込むと、その内容はあなたの手元のスマホやパソコンだけで処理されているわけではない。文章はインターネットを通じて、AIを運営する会社のサーバー(データを保管し計算する遠くのコンピューター)に送られ、そこで処理されたあと返事が返ってくる。つまり入力した瞬間、その文章はもう「自分だけのメモ帳」ではなく、社外のコンピューターに預けたデータになる。
サービスによっては、利用者が入力したやり取りをAIの性能を上げるための学習材料として使う場合がある。設定で断れることも多いが、初期設定のまま使い続けていると、自分が書いた内容が今後の学習に使われている可能性は否定できない。担当者がトラブル対応のためにログを確認することもある。友達との会話のように「言ったら消える」ものではなく、記録として残り続ける前提で考えたほうが安全だろう。
これは無料の相談窓口や役所の受付とは違う。窓口の担当者には守秘義務があり、対応した内容を外に漏らせば処分の対象になる。一方でAIチャットの向こう側にいるのは特定の担当者ではなく、企業のシステム全体だ。入力した内容がどこにどれだけの期間保管され、誰がアクセスできるのかは、利用規約やプライバシーポリシーという長い文書の中に書かれていて、多くの利用者はそこまで読まずに使い始めてしまう。
実際に入力してはいけない情報の具体例
漠然と「気をつけよう」と言われてもピンと来ないので、具体的に見ていく。避けたいのは、他人と組み合わせれば個人を特定できてしまう情報だ。
- 氏名・住所・電話番号・生年月日をまとめて書く(例:「東京都◯◯区在住、田中太郎、090-XXXX-XXXX、1990年生まれですが」)
- 病名や薬の名前、通院先の病院名など、健康に関わる具体的な情報
- クレジットカード番号、銀行口座番号、パスワードそのもの
- 勤務先の会社名と自分の役職、社外秘の資料の中身をそのまま貼り付ける行為
- 友人や家族など、自分以外の人の名前や連絡先
たとえば「契約書のここが不安なので添削してほしい」と頼むとき、会社名や取引先名、金額をそのまま貼り付けてしまう人がいる。添削してほしいのは文章の書き方であって、固有名詞ではないはずだ。体調について尋ねたいときも、「めまいと動悸が続く」という症状だけを書けば十分で、実名や通院先を添える必要はない。
学生であれば、履歴書やエントリーシートの添削を頼むときにも同じ注意が要る。氏名・住所・学校名・生年月日が一枚にそろった文書は、それ自体が個人を特定する材料になりやすい。添削してほしいのは志望動機の文章であって、プロフィール欄の個人情報ではない。貼り付ける前に、名前や住所の欄を「〇〇」に置き換えてから相談する癖をつけておくと安心だ。
なぜ危険なのか、起こりうることを整理する
「別に狙われるほどの人間じゃないから大丈夫」と思う人もいるだろう。ただリスクは大きく分けて二つある。
一つは、サービス側で情報漏えい(ろうえい。データが外部に流出してしまうこと)が起きた場合だ。どんなに大きな会社が運営していても、システムの不具合や不正アクセスによってデータが外に出てしまう事故は、これまでも様々なサービスで起きてきた。入力した内容に個人を特定できる情報が多いほど、漏れたときの被害も大きくなる。
もう一つは、学習データとして使われた場合に、別の利用者への回答の中に、形を変えてその情報のかけらが紛れ込む可能性がゼロとは言い切れない点だ。実際にどの程度起こりうるかはサービスの仕組みによって異なるが、「絶対に混ざらない」と保証されているわけではない、という前提で使う姿勢が無難だろう。加えて、家族や同僚が画面をのぞき込んだり、共有パソコンに履歴が残ったりといった、地味だが身近な事故も忘れてはいけない。
もうひとつ見落としやすいのが、便利な回答をそのままSNSにスクリーンショットで共有する場面だ。「AIにこんな相談したらこう返ってきた」という投稿は面白がられやすいが、画面の中に自分の相談内容がそのまま写り込んでいれば、見せたくなかった情報まで不特定多数の目に触れることになる。共有する前に、画面の中に固有名詞や数字が残っていないか見直す一手間が要る。
個人情報を隠しながら相談する書き方のコツ
大事なのは「AIを使わない」ことではなく、「実名や特定できる情報を抜いた形で相談する」書き方を身につけることだ。以下はそのまま置き換えて使える言い換えの例になる。
書き換え前:「東京都渋谷区で美容室を経営している田中と申します。来月の家賃18万円が払えるか不安で、売上は月80万円くらいです」
書き換え後:「都内で個人経営の美容室をしています。家賃と売上のバランスに不安があります。家賃は月商の2割強くらいです」
書き換え前:「山田花子(35)ですが、乳がんの疑いがあると言われ、来週◯◯病院で検査です」
書き換え後:「30代です。婦人科系の病気の疑いがあると言われ、来週検査を受けます」
このように、固有名詞や具体的な数字・地名を「業種」「年代」「おおよその割合」といった抽象的な表現に置き換えるだけで、相談の中身はほとんど変わらないまま、個人を特定できる要素だけを削れる。プロンプト(AIへの指示文・質問文のこと)を書くときは、まず自分の文章を「これは他人に見られても平気か」という目で読み返す一手間を挟むと、習慣として身につきやすい。
設定でできる対策も確認しておく
書き方の工夫に加えて、サービス側の設定も一度は見ておく価値がある。多くのAIチャットサービスには、次のような項目が用意されている。
- 公式サイトやアプリの設定画面を開く
- 「データ管理」「プライバシー」といった項目を探す
- 会話の履歴を保存するかどうか、学習への利用を許可するかどうかの切り替えを確認する
- 必要なければ、履歴の自動削除や保存期間の短縮を選ぶ
設定名や場所はサービスやアップデートによって変わるため、その都度自分の目で確認するのが確実だ。学校の宿題でAIを使う場合の線引きについては宿題でAIを使うときの線引きと注意点、丸投げにしない使い方でも触れているので、家庭内でのルール作りの参考にしてほしい。
まとめ
AIとのチャットは気軽に思いを打ち明けられる分、つい本名や住所、健康やお金に関わる具体的な情報まで書いてしまいやすい。だが入力した文章は会社のサーバーに送られ記録として残り、場合によっては学習に使われたり、漏えい事故の対象になったりする可能性がある。実名や特定できる数字を抽象的な言葉に置き換える書き方を身につけ、設定画面でデータの扱いも確認しておけば、AIを便利な相談相手として使い続けながら、余計なリスクを減らせるはずだ。生成AIとの付き合い方をもう少し広く学びたい人には、『猫でもわかる生成AI』で学ぶ、生成AIとの距離の縮め方も参考になる。
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